組織に普遍的な3つの生産性を下げている要因とは#1





いろな社内組織の業務改革のお手伝いをしています。組織運営で、経験的にほとんどの組織で当てはまる無駄というものがあります。
業務改革をお手伝いするときに、最初に着目するのはこの3つです。

  ・管理の無駄
  ・是正の無駄
  ・相談の無駄

そして、これを変えていくと、ほとんどの組織の生産性はものすごく改善します。
なぜ、私がちょっとお手伝いするだけで、そんなに簡単に変われるのかというと、ほとんどの人がそれを良いことだと信じてやっているからです。逆に言えば、それが「悪いこと」だと認識できれば改善する方策が見つかるのです。




これらは、建前的にはやったほうがいいことばかりなのです。だから否定できません。「頑張ってやる」になってしまっています。その結果、個人や組織としての生産性や活力が下がっていくのです。

長文になったので、3回に分けてお送りします。本日は第1回。「管理の無駄」についてお送りします。




■管理の無駄


ちょっと偉そうなことを言わせてもらうと、日本企業の高コスト体質の象徴として真っ先に指摘されるのが、人件費率で見たホワイトカラー職場(間接部門・管理部門)の生産性の悪さです。これは随分昔から言われていることですが、全く改善したようには見えません。

しかし、本当の意味での効率でいえば「間接部門や管理部門の要員が多い(=高コスト)」という数字が問題なのではなく、それらの部署の働きがもたらす効果や影響といった結果が問題なのです。
たとえば、管理部門は経営の方針を受け、コンプライアンスやワークライフバランスといった、そのつどの大きな課題に対応するためのさまざまな施策を現場に向けて導入・展開します。それら諸々の施策の推進や進捗管理などが「業務化」することが、じつは利益を蝕むロスコストの温床になっているのです。

特に管理部門が、その管理部門の存在意義をかけて実施する施策の普及・推進を仕事としてまじめに取り組めば取り組むほど、現場の生産性を阻害してしまうのです。

◆無駄な管理事例


たとえば、情報管理について例を考えてみましょう。

会社としては、情報流出やマルウエアの侵入は、会社の信用失墜という問題をはらんでいるので、必死にならざるを得ません。
このため、多くの会社では、情報管理委員会や情報管理部門なるものを設けて、顧客情報の持ち出しやアクセスには神経をとがらせるようになりました。

顧客情報を取り出すために、上司の承認の証明をつけて情報管理委員会が許可したものだけをセキュリティのかかった(通常のネットワークとは別のネットワークにある)PCでのみ閲覧ができるようにした、と考えてみてください。良い取り組みですね。会社交流会で発表したいくらい。

その結果営業担当は、PCに表示されたユーザの電話番号をメモ帳に書き写して、それで初めて顧客に電話ができるようになります。当然、そのメモは上司に確認をしてもらいながらシュレッダーにかける。笑えない話です。

また別の例ですが、進捗報告についても、このような事例がありました。
スタッフは、毎週、業務の進捗状況を上司に報告する必要があるのですが、これに加えて経営管理部から重要施策に関する進捗は社長にも報告するようにと指示がありました。そして、社長が見やすいように統一フォーマットが決められます。最近、さらに在宅勤務が増えたので、毎日の状況を上司がつかめないということで、時間単位で業務内容を報告することもひつようになりました。
結果スタッフが作る資料は
  ・毎日の業務の時間配分状況とその成果
  ・毎週の業務成果とスケジュールとの差異の原因調査報告
  ・毎月の進捗報告と課題、その対応方策の報告
  ・重要課題については部長への報告資料
  ・会社の重要施策のプロジェクトでは社長報告フォーマットへの要約・転記
  ・遅れたプロジェクトの是正措置の計画立案と関係者合意、上司承認
となります。
特に、部長や社長に報告するときには、課題と是正措置が重要になりますし、技術や状況に明るくない人(特に役員)に向けては「そもそもなぜそれが問題なのか」を説明する資料も必要になります。

一昔前までは、直接の上司が「お〜い。どんな感じ?」で5分で済んでいたものが、こんなふうになっているのです。

で、報告を受けた上司(や上司の上司など)の反応は無反応かツッコミかに別れます。
無反応な上司や社長・役員なら、それで終わり。なにも起きません。何時間もかけて作った資料も、数秒見ただけで終わり。徒労感は半端ないですね。
逆に、いろいろツッコミを入れてくれる上司なら、そのツッコミに対する回答もまた作らないといけません。「次回報告時までに対応を検討します」などと言おうものなら、「このスピードが要求される時代になんでそんなに悠長なんだ?」とさらなるツッコミを受けかねないので、特急で対応することになります。最優先業務になるわけです。

もちろん、担当者がうんうん悩むより、上司のように知見も経験もある人がちょっとアドバイスをしたほうが、短時間に良い結果を出せることも少なくありません。会社でも責任のある人が判断しないといけない問題もあります。「製品のリリースが日程に間に合わない」みたいな問題は社長の判断を仰ぐ必要があります。
ですから、これらの報告はやっている事自体は正しいです。あるべき姿に近いでしょう。ただ、そのためにスタッフの工数が 1/5 くらいは削られるとしたら、それは生産性にとってどうなのかの視点が抜けているのです。

さらに、昨今の流行に乗って、「弊社でもDXに取り組んでいます」と言わんがためのデータも作らなければいけません。必然的に、それらの業務時間の短縮のための方策立案などが降ってきます。施策を立てれば、今までやってなかった業務をやることになり、それがどの程度効果があったのかのレポートも必要になります。業務時間削減のための業務時間が増えるわけですね。

◆管理の問題点


職場には、つねに「あれをやれ、これをやれ」と上から施策が降ってきて、「実施計画の策定」「実施事項に関する報告」「定期的な成果測定や分析」など、まるで管理部門がクライアントであるかのような内向きの仕事が増えていきます。それらの施策が一元的に調整されているならまだしも、似たようなことが複数の管理部門から指示が行われると、それぞれの要求に合わせて書式を整え直したりして、同じような数字を、それら管理部門に合わせて集計し直し、指定の書式に収めて提出するのは現場の仕事なのです。

このような、仕事としての雑務に手を取られる状況は、モチベーションがあがることはありません。負担でしかありません。
「やれと言われたから仕方なくやっている」という後ろ向きの気持ちで、価値を生まない内向き仕事につきあい続けることになります。

それによって、本来の仕事である顧客に向けた価値創造や価値提供のための時間、機会が全体として失われていき、結果として生産性を下げることになります。
この点が管理の無駄の大きな問題なのです。

ものすごく単純に言ってしまえば、管理は生産性を下げるのです。したがって、「管理することは必要悪である」という認識を持って、どのようにしたらそれが最小にできるのかを考えることが必要です。



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