「コップの中の嵐」という言葉を聞いたことがある人は少なくないのではないでしょうか。これは国語辞書にも載っている単語で、
狭い範囲内で起こった、大局には何の影響もない騒ぎのたとえ
という意味です。問題は「狭い範囲内」です。単純に行ってしまえば、当事者は「ものすごい嵐だ」と感じているものの、それは全体から見るとコップの水がちょっと揺れている程度のものだということです。
ただし、コップの水が揺れるのは、外から力が加わったからです。
なにか問題が発生したときというのは、問題の外に原因があります。
■目標設定の出発点は問題。解決の出発点は視点の変更
私達の意識は、その瞬間に起きていることに強く影響を受けます。たとえば、今日行われる会議のプレゼン資料を一生懸命作っているときに、隣の人が「もうすぐお昼だ」と言うと、あなたの頭の中は、「今日のAランチは焼き肉だから、早くいかないと売り切れてしまう」という意識が埋めてしまい、プレゼンのためにせっかく考えていたキーワードは消えてなくなってしまいます。
仕事上の問題や課題でも同じことが起きます。問題を突きつけられ、それをどうやって解決しようかと考えていると、あなたの頭の中は、その問題を解決する方法を一生懸命探そうとします。子供の頃から、そのように訓練されていますし、そのような思考方法に慣れているのです。その瞬間にある現実にいかにうまく対応するかが問われているような気がしてくるのです。
それ自体は悪いことではありません。人類は深い森の中で狼に出会ったら、どのようにして生き残るかを瞬時に考えなければ生き残れなかったのですから。
ただ、現代において、いきなり命の危険にさらされるような場面はありません。「これってどういう状況?」と立ち止まって考えてもいいのです。問題が問題であるのは「その状況において」という制約がついていることがほとんどなのです。狭い範囲で考えるときにそれは解決困難な場合が多いということです。
問題に取り組むとき、それはその問題を解決するのではなく、問題を起きなくすればいいのです。その方策が課題です。
これは間題解決のみならず、イノべーションにも役に立ちます。
この方法を使って問題を解決することが、イノべーションにつながるということも少なくありません。広い視野で考えることによって、変化も必然的に大きくなり、より多くの人を巻き込んで、広範囲で影響力の大きい結果を生むことができるようになります。
目標設定の出発点は、「どのような問題を解決しようとしているのか」という点なのですが、それは「そもそも、それは問題なのか?」と問うことです。
コップの中でなら大嵐と言える問題なのかもしれません。でもそれは、単にコップのおいてある机にちょっと移動中の荷物がぶつかった程度のことかもしれないのです。
例えば、PCを製造している会社で「バッテリーの重量を20%軽しなければならない」という目標があったとします。そうすると、バッテリーを軽くするための方策が色々出てきますが、バッテリーではなくキーボードを軽くしてもいいはずなのです。
実際にあった事例をあげてみましょう。
ある食品メーカーのケチャップは、消費者の間で「ケチャップの出が悪い」という評判が立っているそうだ。メーカーはどのように対応したら良いだろうか?
これは老舗ケチャップメーカのハインツで実際にあった事例です。あなたが販売担当者だったらどうするでしょうか。ビンの設計者に「口が細いのだから出にくいんだ。お前の設計が悪い!!」というのがコップの中の解決法です。
このメーカーはどうしたと思いますか?
わが社のケチャップは濃厚だから出にくいのです
と広告をうったのです。結果、ハインツはケチャップのトップメーカーになりました。
この思考経路を考えてみましょう。
消費者に「ケチャップの出が悪い」という評判が立っているのはなぜでしょうか?
消費者がそのメーカーのケチャップをわざわざ買ったからです。他のメーカーもあるのになぜそのメーカーのケチャップを買ったのでしょうか?
それは消費者がそのメーカーのケチャップが美味しいと感じていたからではないでしょうか。だとすれば、他のメーカーよりも美味しいことが理解してもらえれば、出にくいことは大して問題ではなく、そのケチャップの特徴なのです。
■問題の視点を変える質問
問題をより大きな視点から捉えることで、結果として多くの部署を巻き込み、より大きな課題解決に結びつくか、その問題自体が大した問題ではなくなるのです。とうぜん、多くの関係者を巻き込んで成果を上げたあなたの評価は、単に「設計者にビンの口径を大きくさせる」より高まることは間違いありません。
問題を発見し、課題を解決する目標を設定するときにいかのように自問してみましょう。
★P50(48)〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
・私たちは日常の課題にかかりきりになっていて、全体像を見失っていないか?
・私たちのビジネスの―ビジネス全体の―本質は何か?
・そのことを再認識し、その視点で間題を見ると、より広い視野で考えることができるのではないか?
・特定の問題の背後にある、より広い問題は何か?
・私たちはなぜその問題を解決したいのか?
・私たちはなぜその恩恵を得たいのか?
・そして私たちはなぜそれを達成したいのか?なぜ?なぜ?
・この問題を解決することによって、私たちはどのような強みを得ることができるのか?
・それを得るための別の方法は何か?
・私たちは、自分たちの大きなアイデアに関わるすべての人を巻き込むために、進んで骨を折るつもりでいるか?
イアン・アトキンソン, 笹山 裕子(著) 『最高の答えがひらめく、12の思考ツール ―問題解決のためのクリエイティブ思考』
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最後に、この思考パターンを使ってひとつの問題を解決してみましょう。
あなたは航空会社を経営しています。複数の重要な顧客にこう言われました。
「私は長距離の飛行が大嫌いなんだ。移動するのにかかる時間は実に退屈で飽き飽きする。なんとかならないか?」
あなたはどのような目標を設定するでしょうか?
この顧客のために、コンコルドの路線を作ることを目標にしますか?
いっそのこと大陸間弾道ミサイルに座席をくっつける技術開発を目標にしてはどうでしょう?
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