相手ものの見方に合わせて説得する方法



また銀英伝ネタで恐縮ですが、アッテンボローがヤン・ウェンリーを説得するというシーンがありました。

銀英伝第5巻の「ヤン提督の箱舟隊」という章なのですが、防戦一方のイゼルローン軍(ヤン艦隊)にあって、アッテンボローが出撃許可をヤン・ウェンリーに申し出るシーンです。

このとき、アッテンボローは何度も司令官であるヤン・ウェンリーに出撃許可を取ろうと交渉しているのですが、うまく行ってませんでした。




■アッテンボローの説得方法


このとき、どうしても出撃したいアッテンボローは、フレデリカに助けを求めていまして、こんな風にヤンに話をしています。
ちょっと引用。

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ヤン艦隊の中級指揮官たちは、自分自身と部下の欲求不満を制御するのに、すくなからぬ苦労を強いられた。ヤン・ウエンリー司令官が出撃命令をなかなか下さず、一度だけ下命したときでも、要塞主砲の射程外に出ることを厳に禁じたからである。

出撃を指揮したダスティ・アッテンボロー少将は、苛烈な砲火の応酬につづいて接近戦をいどみ、要塞からの砲撃をたくみに味方につけて、帝国軍を主砲射程の外へたたき出した。

だが、帝国軍にすれば、半ばは計算ずくの退却である。彼らの誘いに乗って突出しようとする味方を、アッテンボローは辛うじて制したが、不平たらたらの中級指揮官たちにつきあげられ、帰投後に再出撃をヤンに願いでた。

ヤン・ウェンリーは士官学校の後輩に一瞥をくれて、こう答えた。「だめ!」

「子供がこづかいをほしがってるのじゃあるまいし、だめ[だめ」はないでしょう。兵士の士気にもかかわってきます。どうか再戦の許可をいただきたく存じます」

「とにかくだめ」
  :
  :(中略)
  :
彼にしてみると、「奇蹟のヤン」などという異名は迷惑もはなはだしいものだった。信頼ではなく過信の温床になりかねない危険性をはらんでいる。

ヤン提督なら何とかするだろう、と、兵士も民間人も信じているようだが、信じられるほうは誰を頼るわけにもいかない。

ヤンは全能でもなければ万能でもなく、じつのところ本質的に勤勉ですらなかった。

同盟軍の最前線の指揮官で彼ほど有給休暇を消化した者はいないし、彼の戦略も戦術も、「なるべく楽をして勝つ」ことを最大の命題として考案されていた。

ヤンに言わせれば、人類が文明を発達させえたのは、楽をしたいという一心が好結果を生んだのであって、身心の酷使を是とするのは野蛮人でしかない、というのだが、ときとしては弁解にしか聞こえない主張ではあった。

ひとたびは退却したアッテンボローだが、やがて陣容を建てなおして、ふたたび陳情におよんだ。

 「私にひとつ考えがあります。責任は私がとりますから、ぜひ再戦の許可を願います

この種の申し出が、ヤンは好きではなかった。軍人、それも若くして巨大な武勲をたてた軍人であるにもかかわらず、ヤンは、軍国的な価値観、思考法、言動、表現のすべてを嫌悪した。後世、ヤンが「矛盾の人」とも呼ばれる所以である。

ヤンの表情に気づいたのは、傍にいた彼の副官フレデリカ・グリーンヒル大尉だった。

彼女が小さくせきばらいしたので、アッテンボローも自分の言いようが司令官の不快感を刺激したことに気づき、すばやく表現法のチャンネルを切りかえた。

 「かなり楽をして敵に勝てる方法を考えつきました。ためさせていただけませんか

ヤンはアッテンボローを見つめ、視線を転じてフレデリカをながめやり、苦笑まじりに首を振ると、くわしく説明するよう提案者をうながした。帝国軍の戦力を可能なかぎり削いでおくことは、長期的に見ても不利益ではなかった。

二、三の修正を加えて、ヤンがアッテンボローの作戦案を許可すると、若い分艦隊司令官は不謹慎なほど陽気な歩調でヤンの執務室を出ていった。ヤンはひとつ吐息すると、金褐色の髪の美しい副官に不平を鳴らした。

 「あまり悪い知恵をつけないでくれよ、大尉、それでなくてさえ面倒なことが多いんだから」
 「はい、出すぎました、申し訳ございません」

フレデリカの表情が、あきらかに笑いをこらえているので、ヤンもそれ以上の苦情を言えなくなった。

(著) 『銀河英雄伝説5風雲編
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ちょっと引用が長くなってしまいましたが、このアッテンボローの2つの発言、

 「私にひとつ考えがあります。責任は私がとりますから、ぜひ再戦の許可を願います」
 「かなり楽をして敵に勝てる方法を考えつきました。ためさせていただけませんか」

同じことを言っているのですが、全く効果が違いました。これは仕事に十分応用できます。

ようは、相手が心理的に受け入れやすい言い方をするということです。これを勝手に「アッテンボローの説得術」と命名しています。




■分析的な人か、直感的な人か


たとえば、心理学の分析で、自分の思考方法と同じものを人は受け入れやすい、という調査結果があるそうです。

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●リーダーは、自分と同じ意見を採用しやすい
ニューヨーク州立大学で組織学を教えているレイモンド・ハントが、意見、提案の採用されやすい条件について調査を行っている。

対象となったのは 210 名の経営者で、「直感的」と「分析的」の 2 つのグルーブに分けて行われた。

彼は、各グループの経営者にそれぞれ直感的なアドバイスと分析的なアドバイスを提示してみた。すると、下の表の数値からもわかるとおり、直感的な経営者ほど直感的なアドバイスを受け入れ、分析的な経営者ほど分析的なアドバイスを受け入れるという結果が出たという。

この結果を分析すると、挑戦的な経営者は挑戦的な提言を支持しやすいというように、「直感的」「分析的」に限らず、経営者、あるいはリーダーは自分と同じ傾向の考えを採用しやすいと言そうだ。

したがって、ビジネスの現場において、自分の上司を動かすためには、上司がどのようなタイプかをよく見極めるとともに自分と同じ意見を採用しやすいという傾向がある、ということを考慮しておいたほうがいいだろう。

  ・    直感的   分析的
 直感的  45.95%   13.21%
 分析的  18.98% 56.60%


内藤誼人(著) 『図解 3秒で相手を操る!ビジネス心理術事典
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極端な分類をするとこういうことなのでしょうね。

直感的な相手に対しては直感的な説得が有効であり、分析的な相手に対しては、データをきちんと示すことが説得の重要な要素になります。

■情報分析と使い方、使うタイミング


これをするためには、相手がどのような言い回しが好きなのかをちゃんと分析したり情報収集したりすることです。

もちろん、ベースは早々変わりませんが、環境・状況によっても軌道修正は必要です。

上司が予算問題で頭を悩ましているときに、「計画になかったけど××の予算をください」といえば、どんないにいい提案でも却下される可能性は高くなります、話を聞いてすらもらえないかも。

一方で業績が悪くて悩んでいるときに、「ちょととこんなことをすると良い結果が得られるかもしれません」といえば、「もっと詳しく」と食いついてくる可能性はあるでしょう。

使い方と使うタイミングの問題だけです。





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フェザーンを制圧下に置いた帝国軍は、今や同盟首都の目前にまで迫っていた。ヤンはイゼルローン要塞放棄を決断、民間人を保護しつつ首都へ急行する。圧倒的な優勢を誇る敵軍に対し、ヤンは奇策を用いて帝国の智将たちを破っていくが、ラインハルトの大胆な行動により、彼との正面決戦を余儀なくされる。再び戦火を交える“常勝”と“不敗”。勝者となるのははたしてどちらか。





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posted by 管理人 at 08:26 | Comment(0) | 交渉術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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