前回は、ちょっと難しい問題に「あっ」と驚く解決策が出せるようになるための考え方のお題
坂道で渋滞しているときに、前の車がズルズル下ってきたらどうするか?
をお題にして、「内省」と「推論のはしご」についてご紹介しました。
今回はその解決編。
■推論のはしごの思考プロセス
ここで、前回ご紹介しました『フィールドブック 学習する組織「5つの能力」』の部長に自分の提案を無視されたシチュエーションで、自分の頭のなかでどのような推論が行われているかについて、見てみたいと思います。
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●推論のはしご
私たちは、検証されないまま深まっていくことの多い確信の匪界に住んでいる。
そのような確信が受け入れられているのは、自分の観察や過去の経験から推測される自分なりの結論にもとづいているからである。
真に望む結果を達成する能力を蝕んでいるのは、次のような感覚である。
・私の信念は絶対正しい
・真実は明らかである
・私の信念は現実にもとづいている
・私の選んだ事実は、本当の事実である
:
:(中略)
:
・私は観察できる事実から出発した。すなわち部長のコメントだ。それはビデオで記録できる、明白なものだ。
・ ↓
・ ↓
・私は、部長の行動の中からいくつかのささいな点を選んだ。
・彼が私から目を逸らしたこと、誰の目にも明らかなあくび。(私は、その直前に彼が熱心に耳を傾けていたことには気づかなかった)
・ ↓
・ ↓
・自分の組織の文化にもとづいて、そこに(「部長は私が話を終えることを望んでいる」という)自分なりの意味を付け加えた。
・ ↓
・ ↓
・一足飛びに部長の現状に関する推測をした(彼は退屈しているにちがいなし、)
・ ↓
・ ↓
・そして、部長がいつも私を無能だと思っているという結論を出した。
・事実、私はいま、部長は(そしておそらく、私が部長の仲間と考える人たちもまた)自分にとって警戒すべき敵だと確信している。
・ ↓
・ ↓
・このようにして私は、はしごの最上段に到達し、彼を困らせるような行動を計画している。
それはすべて理にかなったもののように感じられ、しかもごく短時間のうちに起きるので、現実には自分がそれをしたことにすら}気づかない}。
そのうえ、すべてのはしご段は私の頭の中での現象である。
他の人に見えるのは、はしごの最下段の「観察可能なデータ」と、いちばん上の私が決定した[行動」のみである。
それ以外の部分は目に見えず、疑問に思われることもなく、話し合いで取り上げるには適さないと思われているひじょうに抽象的な部分であるにれらのはしご段を駆け上がることは「抽象化の飛躍」とも呼ばれる)。
ピーター・センゲ(著) 『フィールドブック 学習する組織「5つの能力」』
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ちょっと引用が長くて、全体を理解し難いかもしれませんので、簡単に概念を説明すると…
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人間は観察可能な事実・経験を元に次のようなステップで知識を蓄積するそうです。
1.観察可能な事実・経験をする
2.観察しているものの中から選択した事実を選ぶ
3.その事実に文化的・個人的な意味づけをする
4.自分がした意味づけに基づいて推測をする
5.推測に基づいて、世界に関する情報を持つ
6.自分の持つ世界観を形成し、それに基づいて行動を選択する
ところが、自分が選択した事実が、過去に形成された世界観に一致する(または類似する)ものであるとき、この3.から5.を飛ばしてしまって、6.にたどり着いてしまいます。
これは経験を積んだ人のほうが多い事象です。
このステップを「推論のはしご」といい、普段人間は過去の経験に照らして、脳内ではしごを登ってしまい、その論理を検証することはありません。
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■「なぜそう考えるのか?」
で、本題の「なぜそう考えるのか?」がやっと登場するのですが、
前の車がズルズル下ってきたら、自分も下がらないといけない
というのがなぜなのかを考えてみると、衝突回避が目的であることが明らかになります。
ところが、もし、その車がズルズルさらに下ったら、自分は後ろの車に衝突し、前の車はさらに坂道で加速して自分の車に衝突します。つまり、「衝突回避はできない」という可能性にも行き当たることになります。
つまり、この場合は「前の車が加速してしまう前に、前進してぶつけに行く」という選択肢があることに気が付きます。
もちろん、下ったら後ろの車も同じように下がり、その間に前の車の運転手が下っていることに気がついて、強くブレーキを踏んで停止するという可能性もありますが。
この部分について、前出の『3分でわかるラテラル・シンキングの基本』を引用すると、
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●あり得ない発想が被害を最小限にする
ところが、これをラテラル・シンキングで考えると、まったく別の対応が見えてきます。クラクションを鳴らしても下がってくるような車には、制御不能な問題が発生している可能性も十分考えられます。
:
:(中略)
:
ラテラル・シンキングによる選択肢はただ 1 つ、下がってくる車に向かって走り、接触するギリギリのところで静止するのです。
下がってくる車がスピードを増す前に自分の車を接触させて、相手の車を止めるのです。
多少の被害は出ますが、相手の車のスピードがそれほど上がっていなければ、軽微な損傷ですむでしょう。
また、自分の車の後ろにいる車への玉突き衝突も防ぐことができます。
実際に、そのような状況でとっさに判断できる人は、そんなに多くはないかもしれません。しかし、ラテラル・シンキングをうまく使うことができれば、絶体絶命の状況でも被害を最小限に押さえることができるのです。
山下貴史(著) 『3分でわかるラテラル・シンキングの基本』
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本書の例のように、「車が衝突する」という場面で、「なぜ回避しなければいけないのか?」「それ以外の選択肢はなんだろうか?」「〜すべきというのは本当に正しいか?」などと悠長に考えている暇はありません。
しかし、ビジネスの場では「推論のはしご」の例のように、ちょっと頭を冷やして考える時間くらいはあるでしょう。
その時間を使って、「その判断の"はしご"を一段づつ登り直してみよう」と考える(「書き出す」ことです。頭のなかでグルグル回すことではありません)ことで、ちょっと周囲が「おっ!?」とか「あっ!」という結論が出せるかもしれません。
毎回うまく考えられるかというと、そういうわけではありませんが、少なくとも、出されたお題の手段だけを考える人よりは良い結論が出せる可能性は高まります。
ちなみに、私が坂道でズルズル下ってくる車に出会ったら、まず、ギアをバックに入れて後ろの車に警告し、ぶつかるまでは前の車の運転手にクラクション・パッシングなどのいろいろな手段で気づかせるように努力します。それでもぶつかるときには、ぶつかったときにブレーキを放して自分も前の車と一緒に下がるようにしながら、徐々にブレーキを掛けて2台の車の速度に同時に制動をかけるようにしようと思ってます。
要は、リスクが起きないように最大限に努力し、いよいよリスクが起きることが現実になったら、自分の被害と全体の被害を最小限にするようにする、と。
実際にそういう場面に出あったことがないので、うまくいくかどうかはわかりませんが。
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●本書を引用した記事
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●関連図書
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●このテーマの関連図書
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