学習する組織:「6.ディシプリン」の考え方の基本



 前年度末に売上目標のため無理をした結果、今年度は期首から大幅な目標未達。
 マネジャーが「自分がやった方が速い」と仕事を抱え込む結果、部下が育たず悪循環。
 会議では有力者の発言ばかりが目立ち、それに疑問を示せる雰囲気ではない。

思い当たるフシがありませんか。「学習する組織」のアプローチが役に立つかもしれません。




学習する組織』から、5つのディシプリン(構成要素)を引用してご紹介してきました。

最後に、本書の冒頭にある「ディシプリン」について引用しておきたいと思います。


■ディシプリンとは


いつものように、辞書から引用します。

◇――――――――――――――――――――――――――
●discipline
他動
(人)に自制心を持たせる、(人)が自己管理できるようにする◆用法通例、再帰代名詞を目的語に取る。
〔規則を破った人を〕罰する、懲らしめる
(人)に規則を守らせる、(人)を規律に従わせる
・Every time the teacher tries to discipline the students, they just ignore him. : 先生が何度注意しても、その生徒たちは言うことを聞かない。

〔集団・組織などにおける行動の〕規律、統制
・Let us begin anew with energy and hope, with faith and discipline. : 精力と希望、信念と規律を持ってもう一度始めよう。
〔精神修養などの〕訓練、鍛錬
〔鍛錬によって得られる〕自制[克己]心
〔訓練のための〕(懲)罰
〔教会や修道院の〕法規、宗規
〔学問の〕領域、分野、学科
引用元:https://eow.alc.co.jp/search?q=discipline
――――――――――――――――――――――――――◇


まあ、簡単に言ってしまえば、「規則」「規律」「規範」「訓練」といったイメージものです。

ただ、多くの書籍やメディアの記事では適当な日本語がないためか、あるいは凡人を威圧するためなのかわかりませんが、「ディシプリン」と英語そのままで書かれていることが多いですね。




■5つのディシプリン


センゲは本書『学習する組織』の冒頭で、5つのディシプリンについて以下のように述べています。

★〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

学習する組織が、航空機やパソコンなどの工学技術のイノべーションであったなら、その要素は「技術」と呼べるだろう。

人間の挙動におけるイノべーンョンの場合、その要素となるのはディシプリンだと考える必要がある。

「ディシプリン」というのは、「強制的な命令」という意味でも「処罰の手段」という意味でもなく、実践するために勉強し、習得しなければならない理論と手法の体系である。

ディシプリン(「学習する」)という意味のラテン語「ディシプリナが語源」は、あるスキルや能力を手に入れるための発達上の経路である。

ピアノの演奏から電気工学に至るまでのどのようなディシブリンもそうであるように、天賦の才をもつ人もいる一方、誰でも実践によって熟達度を高めることができる。

ディシプリンを実践することは、一生涯学習者になることだ目的地に到達することは決してない。生涯をかけてディソプリンを習得するのである。

「私は見識ある人間である」とは言い切れないのと同様、「われわれは学習する組織である」と言い切ることは決してできない。

学習すればするほど、自分の無知をより強く感じるようになるだろう。

したがって企業は、恒久的な卓越性に到達したという意味での「卓越した」企業にはなり得ない。

つねに、学習のディシプリンを実践している状態、良くなったり悪くなったりしている状態にあるのだ。

ディシプリンが組織にとって有益だという考え方はまったく新しいものではない。何しろ会計など経営のディシプリンには長い歴史がある。

だが、学習の五つのディシプリンは、それらが個人のディシプリンであるという点で、よりなじみ深い経営のディシプリンとは異なっている。

学習の各ディシプリンは、私たちがどのように考え、どのように相互に作用し合って学習するのかということを扱うものなのだ。

その意味では、従来の経営のディシプリンよりもむしろ芸術のディンプリンに近い。

さらに、会計は「数字を記録する」のには最適である一方で、私たちはこれまで、新しいディンプリンを吸収することによって、「組織を築く」、「組織の能力を高めてイノべーションや創造性を生み出す」、「戦略を練り上げ、方劃や構造を設計する」といった、よりとらえにくい課題には取り組んでこなかった。

おそらくそのために、えてして偉大な組織は、颯爽と現れ、栄光の瞬間を享受していたと思ったら、いつの間にか平凡な組織に成りドがってしまうのだろう。

ピーター・M・センゲ(著) 『学習する組織
―――――――――――――――――――――★


過去記事で、

 ゴールしない、スタートし続ける

というような記事を書きましたが、学ぶことにおいてはますますゴールがなく、向上だけがあるということのようです。

やれやれ、なんか先は長いですね。

でも、本書を読むと、理想とするにふさわしいと思える組織が書かれています。
ということで、私は自分のチームには、「学習する組織になろう」と呼びかけ続けています。

最後に、本書でトヨタ方式にふれた部分があるので、そこも引用しておきます。
大野耐一氏が凡事徹底したと言われるトヨタというのは、同じ製造業からみても、憧れに近い理想の姿を見せてくれます。

★〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

ディシブリンを実践することは手本に倣うこととは違う。

新しい経営のイノべーションがいわゆる大手企業の「べストプラクティス」という形で説明されることが非常に多い。私が思うに、基準となるべストプラクティスは、「何ができるか」に人々の目を向けさせることはできるが、同時に、断片的に模倣したり、遅れを取り戻そうと急激な追い k げをしたりすることにつながり、益よりもむしろ害となる司能性がある。

トヨタの経験豊かなある経営幹部が、視察に訪れた企業幹部たちの案内役を 100 回以上務めた後にこう言った。

 彼らの言うことはいつも決まっている。「なるほど、ここはカンバン方式だね。わが社もそうだ。品質管理サークルか。わが社もやっている。ここの社員は標準作業内容に記人するんだな。わが社の社員も同じだ」と。

 彼らはみな部分を見て、その部分をまねる。彼らが目を向けないのは、すべての部分がどう連携しているかです

ほかの組織をまねることで偉大な組織がつくりあげられたことなどないだろう。別の「偉大な人」をまねようとしても個人の偉大さを手に入れることはできないのと同じだ。

五つの要素技術が一つになって DC-3 型機がつくり出されたとき、商業用航空産業がスタートした。だが DC-3 型機はそのプロセスの終着点だったわけではない。

むしろ、新しい産業の先駆けであった。

同様に、学習の要素である五つのディンプリンが一つにまとまったとき、究極の「学習する組織」ができるのではなく、むしろ実験と進歩の新たなうねりを生み出すだろう

ピーター・M・センゲ(著) 『学習する組織
―――――――――――――――――――――★






■参考図書 『学習する組織




「学習する組織」とは、組織の進化をシステム思考をベースに5つの原則(Five Deciprines)にまとめたもの。組織的学習と組織のあり方の集大成といえる一冊。自分の部下を持ったらまず最初に読むべき本の一冊。





◆アマゾンで見る◆◆楽天で見る◆◆DMMで見る◆

学習する組織
著者 :ピーター・M・センゲ
楽天では見つかりませんでした
学習する組織
検索 :商品検索する



●本書を引用した記事
 努力と成果は比例しない。その1
 社長は君のどこを見て評価を決めているのか2
 「なぜそう考えるのか?」を考える2
 「なぜそう考えるのか?」を考える1
 断片を組み立てても問題は解決しない
 学習する組織:「6.ディシプリン」の考え方の基本
 学習する組織:「5.チーム学習」の考え方の基本
 学習する組織:「4.共有ビジョン」の考え方の基本
 学習する組織:「3.メンタルモデル」の考え方の基本
 学習する組織:「2.自己マスタリー」の考え方の基本

●このテーマの関連図書


「学習する組織」入門――自分・チーム・会社が変わる持続的成長の技術と…

U理論――過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術

なぜ人と組織は変われないのか――ハーバード流自己変革の理論と実践

学習する学校――子ども・教員・親・地域で未来の学びを創造する

マンガでやさしくわかる学習する組織

最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か





■関連する記事

努力と成果は比例しない。その1

たとえば、昨日一番頑張ったことは何でしょうか?それに見合う結果が出ましたか?普通、サラリーマンをしていると、短期的に成果が出るものは多くありません。また、営業職でもない限り、具体的な成果として数値が上がるものでもありません。なので、時々話をしていて「あ、この人、成果について考えてないな」と感じる時があります。そういう人は多くの場合、「真面目ないい人」なんですよ。どういう時に気がつくかというと、「『なんでもすごく一生懸命』やる」という行動をしている場合です。すごく一生懸..

社長は君のどこを見て評価を決めているのか2

本日は昨日のの紹介の続き。過去記事でも幾つかネタにしたものがありまして、実際経験としてこういったテクニックは役に立ちます。おそらくサラリーマン経験が長くなると、皮膚感覚としてわかるのでしょうが、なかなか文章にするのは難しいですし、それをこれだけ体系的に取りまとめるのも難しいので、今後会社の中であるレベル以上を目指そうとする方には、若いうちに知っておいて欲しい内容です。さすがに筆者が実際にコンサルタントをして得た会社社長の..

「なぜそう考えるのか?」を考える2

前回は、ちょっと難しい問題に「あっ」と驚く解決策が出せるようになるための考え方のお題坂道で渋滞しているときに、前の車がズルズル下ってきたらどうするか?をお題にして、「内省」と「推論のはしご」についてご紹介しました。今回はその解決編。推論のはしごの思考プロセスここで、前回ご紹介しました『フィールドブック 学習する組織「5つの能力」』の部長に自分の提案を無視されたシチュエーションで、自分の頭のなかでどのような推論が行..

「なぜそう考えるのか?」を考える1

本日は、ちょっと難しい問題に「あっ」と驚く解決策が出せるようになるための考え方のトレーニングについてご紹介します。その名も『3分でわかるラテラル・シンキングの基本』。いきなり演習問題いきなりですが、ちょっと実際に考えてみてください。こんなシチュエーションです。−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−渋滞している道路を走っていたとしましょう。上り坂にさしかかると、渋滞の状況はどんどんひどくなり、車の..

断片を組み立てても問題は解決しない

なにかの問題に対して、その対策を説明するときなどによく使う方法は、ほとんどが扱いやすい大きさにまで分解するというやり方を基本にしてます。よく論理思考などで出てくる・MECE・ロジックツリーなどはその典型です。割れたガラスのかけらを集めて窓ガラスは作れるか?こうした論理を分解・組み立てする方法がよく用いられるのは、それが効果があるからでしょう。そうした面を否定するつもりもありませんし、普段私も論理を構築するとき..

学習する組織:「6.ディシプリン」の考え方の基本

前年度末に売上目標のため無理をした結果、今年度は期首から大幅な目標未達。マネジャーが「自分がやった方が速い」と仕事を抱え込む結果、部下が育たず悪循環。会議では有力者の発言ばかりが目立ち、それに疑問を示せる雰囲気ではない。思い当たるフシがありませんか。「学習する組織」のアプローチが役に立つかもしれません。『学習する組織』から、5つのディシプリン(構成要素)を引用してご紹介してきました。最後に、本書の冒頭にある「デ..



■同じテーマの記事

学習する組織:「5.チーム学習」の考え方の基本

前年度末に売上目標のため無理をした結果、今年度は期首から大幅な目標未達。マネジャーが「自分がやった方が速い」と仕事を抱え込む結果、部下が育たず悪循環。会議では有力者の発言ばかりが目立ち、それに疑問を示せる雰囲気ではない。思い当たるフシがありませんか。「学習する組織」のアプローチが役に立つかもしれません。『学習する組織』から、5つのディシプリン(構成要素)を引用してご紹介します。本日は第5回。チーム学習について。..




posted by 管理人 at 06:47 | Comment(0) | 組織マネジメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。