学習する組織:「1.システム思考」の考え方の基本



「学習する組織」とは、MIT(マサチューセッツ工科大学)の経営学者、ピーター・センゲが1990年に出版した「The Fifth Discipline」で提唱した考え方です。

日本では、1995年に邦訳が発行された『最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か』を皮切りに何冊もの本が上梓されています。




■学習する組織とは


個人的には、本書『学習する組織』で紹介された多くのことは個人にも当てはまるので、組織開発論というよりも、マネジメントプロセスの技術論だと考えていますが、非常に多くの示唆をもたらしてくれます。

身近なところで思いつくのは

 前年度末に売上目標のため無理をした結果、今年度は期首から大幅な目標未達。
 マネジャーが「自分がやった方が速い」と仕事を抱え込む結果、部下が育たず悪循環。
 会議では有力者の発言ばかりが目立ち、それに疑問を示せる雰囲気ではない。

みたいなものです。

誰しもある程度は見に覚えがあるのではないでしょうか。

もしかしたら、あなたの組織は「学習障害」を抱えてしまっているかもしれません。

たとえば、多くの経営者やマネジャーは、「自分の理解の範囲内では」合理的な判断を下すものです。

しかし、そもそも視野が狭かったり、思考にバイアスがかかっていたりしたら、どうなるでしょう? 一見合理的な意思決定でも、実際は非合理になってしまいます。目の前の効率を高めることを重視するあまり、長期的な収益性を犠牲にしてしまう、といったことが起こります。

加えて、私たちには、経験のないことや知らないことは目に入れることは出来ても見ることも考えることもできない傾向があります。また感情的に受け入れられないことを否定しがちです。つまり、ものごとをありのままに見るのではなく、自分の思考に合致することだけを見る傾向があります

このような状態は「学習障害」といいます。見たいものだけを見て、見たくないものは見ない。学ぼうとしない、気づこうとしない状態です。

組織だけでなく個人においてもに学習障害が蔓延すると、やがて環境変化についていけなくなり、凋落してしまうのです。

変化に適応するには、「学習能力」が必要です。組織の学習能力こそが、持続可能な競争優位やたゆまぬ価値創造のもっとも確かな源泉であるとも言われています。

そこで役に立つのが、「学習する組織」のアプローチです。

このあと数回を使って、『学習する組織』から、5つのディシプリン(構成要素)を引用してご紹介します。本日は第1回。




■システム思考


システム思考とは、出来事や関係する人、関係する組織などの各々の要素を単体で理解するのではなく、相互関連性を理解すること、多様な個の集まった全体を理解することです。本書『学習する組織』では以下のように紹介されています。

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●システム思考
雲が立ちこめ、空が暗くなり、木の葉が風に巻き上げられると、もうすぐ雨が降るとわかる。また、豪雨で流れていく水が何キロメートルも離れたところの地下水に流れ込むことも、明日には空が晴れることも、私たちは知っている。

こういった出来事はすべて、時間的にも地理的にも離れているが、すべて同一のパターンの中でつながっている。

それぞれがほかのものに影響――たいていは目に見えない影響――を与えている。

豪雨のシステムは、その全体を考えることで初めて理解できるのであり、どこであろうとパターンの一部分を見ることでは理解できない。

ビジ不スや人間によるそのほかの企てもまたシステムである。

それらも相互に関連する行動が織り成す、目に見えない構造でつながっており、互いへの影響が完全に現われるまでには何年もかかる場合も多い。

私たち自身がそのレース細工の一部として織り込まれているため、変化のバターン全体を見ることは非常に難しいのだ。

そこで、ンステムの全体ではなく、他と切り離された部分のスナップショットに焦点を当てて、自分たちの最も深刻な問題がまったく解決しそうにないのはなぜなのだろうかと考えがちだ。

システム思考は、パターンの全体を明らかにして、それを効果的に変える方法を見つけるための概念的枠組みであり、過去 50 年問にわたって開発されてきた一連の知識とツールである。

このツールは新しいものだが、その根底にある世界観はきわめて直観的なものである。実験によれば、幼い子どもたちはソステム思考を非常にすばやく学習することが明らかになっている。

ピーター・M・センゲ(著) 『学習する組織
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要は、引用で書いたように「相互に関連する行動が織り成す、目に見えない構造でつながっており」の部分を「システム」として理解するということです。

それを1枚の絵にしたものが「ループ図」というものです。このループ図の書き方は別記事でもふれていますが、非常に単純ですが、これが表しているものは、組織や個人が行っているすべての行動を非常によく表せると考えています。

ある程度練習は必要ですが、システム思考で私が最初に覚えたのがこの図を書くことでした。
その後、色んな場面で役に立ってくれています。

その他にも、いろんなツールが用意されています。「時系列変化パターングラフ」「ストック&フロー」など。
概要を知りたければ、こちらが詳しいです。

 システム思考のツール

このサイトは私自身も良く利用します。




■参考図書 『学習する組織




「学習する組織」とは、組織の進化をシステム思考をベースに5つの原則(Five Deciprines)にまとめたもの。組織的学習と組織のあり方の集大成といえる一冊。自分の部下を持ったらまず最初に読むべき本の一冊。





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著者 :ピーター・M・センゲ
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●本書を引用した記事
 努力と成果は比例しない。その1
 社長は君のどこを見て評価を決めているのか2
 魚の目―フローを見る力3:慣性の視点
 付加価値を意識する
 多重人格者になる
 問題を報告してはいけない。行動を報告しなさい
 汚れていれば、掃除すればいいじゃない―だれもやりたがらない仕事のネタ
 断片を組み立てても問題は解決しない
 学習する組織:「学習する組織」に最終目的地や最終的な状態はない
 魚の目―フローを見る力5:3つの力を活用する

●このテーマの関連図書


「学習する組織」入門――自分・チーム・会社が変わる持続的成長の技術と…

U理論――過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術

なぜ人と組織は変われないのか――ハーバード流自己変革の理論と実践

学習する学校――子ども・教員・親・地域で未来の学びを創造する

マンガでやさしくわかる学習する組織

最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か





■関連する記事

努力と成果は比例しない。その1

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社長は君のどこを見て評価を決めているのか2

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付加価値を意識する

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posted by 管理人 at 05:00 | Comment(0) | 組織マネジメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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