「特許権」という概念が、ほぼどこの国にもあります。
これは、最初に苦労して何かを発明した人には、その苦労が報われるような利益がもたらされるべき、という概念なのだと考えていますが、仕事のやり方については、あまり認められていないみたいです。
※最近は「プロダクト・バイ・プロセス特許」とか「ビジネスモデル特許」とかも認められる傾向にあるみたいですが
■先行者はとっても苦労する
初めてやるようなことは、たいてい七転八倒しないとできるようにはなりません。
そのままだめになっちゃうことも少なくありませんし。
何かを初めてやるのはものすごく大変なんです。
でも、それがうまくいくようになってから、それをマネてやる人というのは、前にやった人の事例を参考にしながらやることができるので、相対的には簡単にうまくいくようになります。さらに時間の経過が技術を進歩させて、よりやりやすくしているという状況も考えられます。
コンビニといえば日本で最初に始めたのはセブンイレブンだったと思いますが、その後いろんな会社が参入しました。うまくいく方法がわかったから、という側面も大きいでしょうね。
たとえば、今はやりの AI だとか BI、機械学習なんかはやってみればいい結果が出せそうな気もしますが、実際にやってみれば一筋縄ではいかないです。
いきなりある部署で「トヨタ方式で仕事をしよう」といっても大抵は、最初に「よし、やってみろ!」と言ってもらえるまですら言ってもらえることは少ないでしょう。そこから四苦八苦しながら導入の承認をもらって、さらに自分たちにあったやり方を見つけていくわけです。
■後行者利益はおおきい
それを見ていた隣の部署の人が、「あっちでうまく言ったから、ウチの部署でもやろう」というと、実績があるのでわりと簡単に認められますし、パターンも似ているので大きなトラブルもなく(相応に苦労しますが、最初にやった人と比べたら簡単でしょう)実績をあげることができかもしれません。
多分、この2つの部署はある程度の期間があれば、ほぼ同等な成果を出すことができるようになります。
あとから始めた人は、先人の様子を見て始めるので、より素早く成果にたどり着くことができるわけです。
過去記事でも何度か書きましたが、「初めてのことより誰かがやったことを真似する」のが効率のいい仕事のやり方です。
では、会社としてはどちらの人が評価されるかというと、
成果単体では両方同じ評価
です(だと思います)。
これを、「この人が最初に始めたのだから、そっちをより高く評価する」と言ってしまうと、成果主義の根本が崩れちゃいます。
1からスタートして、10の成果を出した人と、5から初めて10に到達した人では、同じ「10を達成した」という評価でないと、成果として評価できないですから。
ただし、1→10にした人には「コンピテンシー評価」が高くなります。
ようは成果評価ではなく、能力評価として高くなるわけですね。どちらを重要視するかは、評価者や会社の方針にもよりますが。
■先行者利益を保護してはいけない
こうした仕事のやり方や、それによって得られたノウ・ハウなどを、先行者利益として保護してしまうと、全体の利益が大きくならないことは、考えてみれば当然です。
3人の部下がいて、あるやり方をすれば10の結果が出せるのに、そのやり方を考えた1人の人にしか、そのやり方でやることを認めなければ、せっかく30の成果が出せるチャンスが有るのにそれをあえて出さないようにするわけですから。
組織をマネジメントする立場としては、「あいつのやり方が良いからマネしろ」と言わないといけないわけです。
一方でマネされる側にとっては、「自分が苦労して習得した方法をただでくれてやる」ことになるので、面白い話ではありません。
もしかして、自分より要領のいい人だったら、自分が10しか成果が出せないのに、15くらいできるようになっちゃわれれば、評価が相対的に下がるリスクもあるんですから。
日本人はおおらかなのか、このあたりわりとゆるい人が結構います。
日本という社会のいいところだとは思いますが。
私が経験した海外だと、自分が得たノウ・ハウは、よほどのことがないと教えたがらない人が結構います(全員ではないですが)。
社員同士の勉強会なんて開催しても雑談会で終わっちゃうこともしばしば。まあ、私の感じるところ、なので、本当は違うのかもしれませんが。
組織をマネジメントする立場であれば、こうした「ノウ・ハウ隠し」をやらないような、プロセス共有の仕組みを作らないと、組織の成果は上がりません。
特許のように先行者利益を保護してはいけないんです。
■先行者利益を破壊する仕組み
どういう仕組でプロセスを共有するようにさせるかというと、いろいろな方法があります。
わりと簡単な方法を幾つかご紹介します。
●マニュアルを作成させる
これはわかりやすいですね。「どうやってやるか」というマニュアルを作ることによって、他の人に見える化するわけです。
●技術共有会を実施する
技術共有会なるミーティングを開催し、その中で自分がどういうことを工夫しているかを発表させ、「工夫大賞」みたいに表彰をする。
●業務を共有する
一つの業務を一人の人がやり続けることで、プロセスは洗練されていきます。一方でその人にしかノウ・ハウが蓄積されないので、そのノウ・ハウを共有するように、2人で業務にあたり、経験者を指導者にして経験の浅い人にノウ・ハウを移転します。
この場合、経験者には別の業務を担当させるようにして、ひとりで作業ができる環境を残さないように追い込まないと、結局ノウ・ハウは移転されません。
また、ノウ・ハウが移転できたら、より高度な仕事ができるようになるんだという成長感をもたせるような仕事を割り振らないといけないので、マネージャーとしては結構気を使いますが、組織の成果は非常に大きくしやすいです。
やってはいけないのは、マネされた人の評価を低くしてしまうこと。
これでは苦労した人は報われません。苦労した人には何らかの(先行者としての)評価をちゃんと与えないと納得してもらえないでしょう。
ただし、それは「名誉」という評価であっても良いと考えています。