IBMを知らないビジネスパーソンはほとんどいないでしょう。その繁栄を作ったのがトーマス・J・ワトソンJr.です。
第二次世界大戦前においては、主たるビジネスがパンチ・カード機やタイムレコーダーの開発及びセールス(厳密にはリース)であった IBM を、巨額の先行投資を英断することにより、当時は黎明期にあったコンピュータ産業の巨人へと成長させたことで有名ですね。
■IBM大躍進の原動力
精肉店の秤などを製造していたアメリカの零細企業が、いまや世界のトップに経つコンピュータ・システムの大企業です。その大転換を決断し、今の IBM を作ったと言っていいトーマス・J・ワトソンJr.。
1938 年の賃金時間法(公正労働基準法)がアメリカで制定され、 IBM の最初の追い風になりました。
この法律によれば、企業は勤務時間と賃金の記録をつける義務がありました。
しかしそれができる既存の機械はなかった。ワトソン・シニアはこの問題を解決する機械を開発。コンピュータを学ぶと誰でも耳にするIBMの「MARK I」です。
続いて 1947 年には順序選択機構付き電子計算機(SSEC)を開発します。すでに収益は1億2000万ドルになっていました。
この頃、ワトソンJr.が IBM を引き継ぎます。
経営的思考という視点からすれば、 IBM が成し遂げたことよりも、 IBM の象徴的存在としての意義の方が重要な人だと考えています。
ちょうど、日本における松下幸之助みたいに。
ワトソンJr.が引き継いだその会社は、販売手腕と顧客サービスを中心に据えた力強い企業文化を持つようになります。機械が故障してばかりいた時代に、 IBM は優良サービスを誇るスター的な存在になります。
本書には、そのワトソンJr.のメッセージが込められているのではないでしょうか。
■概要
●基本的な価値観が重要だ
「企業の中核にある信念(最近ではコーポレート−バリューなどと呼ばれる)は、成功への鍵だ。
これらの信念が社員の間に共通の目標を与え、その目標を維持し、世代から世代へと移り変わる中で起きるさまざまな変化の中で指針を与えてくれる」そうワトソンは信じた。
ワトソンに言わせれば、確固とした一群の信念が成功をもたらす。そしてこの信念を基礎として、企業のあらゆる方針や活動がある。
信念は常に方針や経営手法や目標に優先されるべきだ。
基本的な信念に反する場合は、方針や目標はいつでも必ず修正されなければならない。
信念がしっかりしているだけではだめだ。楽なときも苦しいときも、頑としてその信念を守り抜くことが大切だ。企業が成功する最大の要因を 1 つだけ挙げるとすれば、それはこの信念を忠実に堅持することだ。
信念は揺らぐことがない。ほかのあらゆることは変えてもいい。しかし企業の根幹となる基礎的な真実だけは決して変えてはならない。
企業はその成長の過程で、信念以外のあらゆることを変える覚悟が必要だ。基本的なビジネス哲学だけが企業の聖域だ。
●企業文化を育てる
偉大な企業を作りあげる信念は、ある 1 人の人間の性格、経験、そして確信から生まれてくることが多い。
IBM の場合、それはトーマス・ワトソン・シニアだった。ワトソンは企業文化を生み出し、それは生き続けた。「ビッグブルー」の愛称で親しまれる IBM は典型的な現代的企業になった。
●競争への情熱
IBM の企業文化の背景には、精力的に競争し、高品質のサービスを提供することへの信念があった。
後にライバル会社たちは、 IBM は巨大企業だから受注に成功しているだけだ、と不平を言った。しかしそれは真実の一部しか突いていなかった。
その巨大さの裏には深い献身的なこだわりがあった。
すなわち、カスタマーアカウント(取引先)をきっちり管理し、よいサービスを提供し、顧客との関係を築くこと、そして会社の価値観に対する強い確信だ。
■目次
1 最高のものを、どうやって引き出すか?
2 社員を、いかに成長させるか?
3 最高のサービスと完璧な仕事とは?
4 激しい変化に立ち向かうには?
5 成長と変化から、何を学ぶか?
6 公共の利益を考える
7 新たな問題に、新たな方法で取り組む