マイレージプログラムで航空会社は利益を得るのか?




ビジネスだけでなく、私生活でも「交渉」というものは避けられません。

ところが、この交渉事って、得意だという人にはあまりお目にかかれません。
たぶん、皆さん痛い目にあった経験があるのでしょうね。

かくいう私も、難しい交渉事で失敗した経験は山ほどありますし、いまでも交渉事になると「もう今日はうちに帰って寝たい…」とか思っちゃいます。まあ、「給料のうち」なのでそんなことはしませんが。




■交渉の失敗の原因


交渉がどうなったら「失敗」といえるのかについては、おいといて、あとになって「あのときこうしていれば…」と思い出す原因のひとつに、認知バイアスがあります。

これを避けるために、交渉の準備をしているときや、交渉中にこのチェックリストを見直すことにしています。

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合理的な交渉とは、ただ合意に至ることではなく、最高の合意点に到達する方法を知ることをいう。

われわれが学んできたことは、あなたが交渉の相手もろとも、お粗末な状況に放り出されてしまうような意思決定を回避する一助となるはずだ。

どんな経営者にも深く染み込んだ意思決定の偏向があって、そのため目前のチャンスが見えなくなっていたり、交渉のもつ可能性を十分に引き出せなくなっている。

そうしたバイアスには次のものが含まれる。

・最初になんらかの行動方針にコミツトしてしまうと、それがもう最大のメリットをもたらす選択でないことが明らかになってからも、どうしようもなく深入りしてしまうこと。
・自分の獲得分はあくまでも相手側の損失の上に成り立つと決め込み、双方にメリットをもたらすようなトレード・オフの機会を逸すること。
・最初の提示条件のような、不適切な情報に基づいた自分の判断に固執すること。
・情報がどんなかたちでもたらされたかに過剰反応すること。
・使いやすい形になった情報に依存し過ぎ、もっと関連の深そうな情報をないがしろにすること。
・相手側の視点に立つことで学べるはずのことを考慮しないこと。
・自分に有利な結果になるはずだと自信過剰になること。

以上の七つの要因を念頭において、次のケースを考えていただきたい。

マックス H・ベイザーマン(著) 『マネージャーのための交渉の認知心理学―戦略的思考の処方箋
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実際のチェックリストは、他の本から拾ったものも含めてもっとありますし、もうちょっと短い言葉にしていますが、認知バイアスチェックリストと名付けていつでも目の前において見られるようにしています。

では、本書に書いてあった事例をご紹介します。




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1981年、アメリカン航空はフリークエント・フライヤー・プログラムを導入した。

これは航空旅客産業史上、おそらくもっとも革新的なマーケティング作戦だった。

このプログラムは、ビジネス客(あるいは頻繁に旅客機を利用する他の人々)が、自分の搭乗した便の飛行距離を登録し、そのマイル数に応じて旅行賞品に引き換えられるというものだ。

アメリカン航空が顧客の再利用率を高めようとしたこの販売促進策は、優秀なマーケティング戦略のように思われていた。

だが、交渉という観点からみると、これはたいへんお粗末な意思決定であり、やがてマーケティング的に見ても財務戦略の視点からも、破滅的なプログラムであることが明らかになった。

アメリカン航空が先導役をはたした格好になって、業界のどの航空会社も、まもなく類似プログラムを発進させた。この競争が激化するとすぐ、各社とも搭乗頻度の高い利用者には獲得距離の 2 倍をサービスしたり、提携ホテルへの宿泊、提携レンタカー利用などにも、より高いポイントを与えるようになった。

この競争に残るために必要となる利用者向けの特典は、やがて天井知らずにつり上がり、巨額の負債をもたらすことになった。

1987 年 12 月にはデル夕航空が翌年一年間、アメリカン・エキスプレス・カードで搭乗券を購入する旅客全員に、搭乗距離を 3 倍にして記録するサービスを実施すると発表した。

アナリストたちの計算では、こうした航空会社が利用者に提供する無料搭乗券の金額は、15 億ドルから 30 億ドルにも達する。では航空各社は、どうしたらこの混乱状況から脱出できるのだろうか?

マックス H・ベイザーマン(著) 『マネージャーのための交渉の認知心理学―戦略的思考の処方箋
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簡単に流れを書くと

 マイレージプログラムを導入する
   ↓
 顧客が増える(1)
   ↓
 競合他社が同じマイレージプログラムを導入する
   ↓
 競争のためにより顧客に有利なマイレージプログラムを導入する
   ↓
 (1)に戻る

これがループしてしまって、どんどん自己の利益を減らしてしまっている状態ですね。
いちどこの状態になるとなかなか抜け出せません。もし、自分の会社だけマイレージプログラムをやめてしまえば、顧客は全部競合他社に流れてしまいますから。

これは冒頭のバイアスでいうと

◇――――――――――――――――――――――――――
最初になんらかの行動方針にコミツトしてしまうと、それがもう最大のメリットをもたらす選択でないことが明らかになってからも、どうしようもなく深入りしてしまうこと。
――――――――――――――――――――――――――◇


に相当してますね。

同じことは、個人の仕事をする上でもやってます。

 ・課長に「自分がやります」と言ってしまった
 ・「××とは○○をすること」などと判断してやってみたが、うまく行ってない
 ・隣の部署で会社周辺の清掃活動をやって社長賞がでた。自分の部署でもやって金一封を狙おう

これを事前に察知して、コミットメントしなければいいのですが、もしすでにコミットメントしてしまっていたら、どうすればいいのかは実はひとつしか方法はありません。

 前言を翻して「やめる」と宣言する

ことです。

本書では、かつてアメリカの自動車業界でも同じことが起きて、アイアコッカがどのように対応したのかが事例として載ってます。

ここまで引用すると長くなるので、詳しくは本書で。




■参考図書 『マネージャーのための交渉の認知心理学―戦略的思考の処方箋




優れた交渉力はビジネスの成功には必須のスキルである。
認知心理学は交渉におけるネゴシエーションの基本となる学問であり、その現実への応用方法を紹介する。
例:1.アンカーリング(係留効果)
  2.Foot in the door
  3.Door in the face
  4.フレーミング
  5.トレードオフ戦略
  6.勝者の呪縛
本書では交渉におけるシチュエーションとして、1対1の交渉だけでなく、現実に起こりうる多数の利害が絡む交渉についても、認知心理学に基づいた戦略を提示する。





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マネージャーのための交渉の認知心理学―戦略的思考の処方箋
著者 :マックス H・ベイザーマン
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●本書を引用した記事
 合理的に交渉する仕組みを作るための質問
 あなたはなぜチェックリストを使わないのか
 複数の仕事を並行して進めるための必須作業
 交渉の認知心理学:交渉の一般的なミスを避ける自問
 献立とレシピ
 新しい技術、プロセスについて試してみる
 結果の成否を検討せずにコミットメントしてはいけない
 合理的に交渉する仕組みを作るためのチェックリスト
 交渉の認知心理学:社会的ジレンマ
 問題を深堀りする

●このテーマの関連図書


ハーバード×MIT流世界最強の交渉術---信頼関係を壊さずに最大の成果を得…

「話し合い」の技術―交渉と紛争解決のデザイン

サプライ・チェインの設計と管理―コンセプト・戦略・事例

マーケティング(NewLiberalArtsSelection)

サービス・イノベーション--価値共創と新技術導入

戦略評価の経営学―戦略の実行を支える業績評価と会計システム





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posted by 管理人 at 05:06 | Comment(0) | TrackBack(0) | 交渉・会議・面接 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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