お金をオークションにかけたらいくらで売れるか?、という実験があるそうです。
その額面より高ければ、当然出品者は儲かりますが、お金という評価額が絶対に決まっているものが、評価額より高く落札されることなんてあるのか?、というと、どうもあるらしい。
★P12〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
●20ドル札のオークション
20人の人間のいる部屋に自分がいると想定していただきたい。
これからある人がみんなの前に出て、ポケットから一枚の 20 ドル札を取り出し、次のようにアナウンスする。
これからこの 20 ドル札をオークションにかけます。
この競りに参加するか傍観するかはご自由です。
競りの値の付け方は、1ドル単位でお願いします。もっとも高い値を付けた方がこの 20 ドル札を競り落とせます。
今回のオークションが伝統的な競売と一つだけ違うのは、二番手の値をつけた人も場にその金額を支払うこと、ただしもちろんこの紙幣はもらえない、というルールがあることです。
たとえば、ビルが 3 ドル、ジェーンが 4 ドルで競りが終わったら、私がジェーンに差引 16 ドル(20 - 4)払い、第二位の値をつけたビルは私に 3 ドル払うことになります。
さて、あなたは 1 ドルと言って、このオークションに乗りますか?
:
:(中略)
:
この状況を疑わしいと思われた読者は、このオークションを友人、同僚、学生諸君などに試していただきたい。
最終の競り値が 30 ドルから 70 ドルのレンジになるのは普通で、われわれの最も成功した競売では、20 ドル札を 407ドルで売り抜いた(最終値が 204ドルと 203 ドルだったのである)。われわれは過去四年間、このオークションを教室で開催してきたが、計一万ドル以上稼いだことになる。
マックス H・ベイザーマン(著) 『マネージャーのための交渉の認知心理学―戦略的思考の処方箋』
―――――――――――――――――――――★
ちょっと怖くて試していませんが、これは人間は「損得勘定では、損の方を高く評価しがち」という心理技術を利用したものらしいです。
19ドルまでは出しても、もし20ドルがもらえるのであれば、損にはなりません。
ただし、相手が 19.9 ドルと言われてしまうと、自分が 19 ドル損をすることになります。それをさけるために「20ドル」ということになります。そこからは本書に書いてあるとおりの事態がおきるそうな。
冷静に考えれば、このオークションは不正です。
オークションで落札できなかった人が、場代以上の金額を支払うことになるなんて。
まあ、本当にお金に困ったら試してみることにしましょう。
しかしながら、同じようなシチュエーションは仕事ではありそうです。
私の仕事のITシステム開発だと、まずどんなシステムを作ればいいのか見積もりのために工数が必要です。
ところが、その見積もり工数は一般的にはユーザから支払ってもらう事はありません。
つまり、その仕事が取れなければ全損です。
その全損を避けるためには、なんとしてもコンペを勝ち取らないと行けないわけですが、競合も同じことを考えているので、どんどん安くなっていきます。それが究極まで進めば、開発工数どころか見積もり工数もでないようなプロジェクトを受注することになります。
こうして、システム屋は仕事はあるけど儲けがない状態になっていく、と。
■20ドル札オークションの罠にはまらないために
こういう、オークションの罠にはまらないためには、筆者は気がついた時点でオークションを降りること
だと述べています。
★P12〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
鍵はこのオークションが罠だと認識することと、一文たりとも上乗せしないことである。
有能なマネジャーであろうとするならば、罠を見抜くことを学習しなければならない。
ひとつの戦略は、自分の決定を他の意思決定者の目を通して考えるように努めることである。
20 ドル紙幣のオークションでこの戦略を使えば、その競売が自分にも魅力的なように他の競り手にとってどれほど魅力的に見えるかがよくわかるはずだ。
この知恵があれば、何が起こるかが予測でき、傍観していられる。
同じような罠は、ビジネスにも戦争にも普通の個人生活にも存在する。
先の湾岸戦争で、イラクの指導者サダム・フセインには、交渉によって合理的な解決を追求すべきだと考えるのに十分な情報があったことも、その証左だと言える。
クウェート侵攻という初期「投資」が自らを罠にはめることになり、さらに妥協なきコミットメントをエスカレートさせたのである。
値引き競争をしているふたつのガソリン・スタンドを考えれば、双方ともこのドル紙幣オークションのトラップにかかっていることに気づけるはずだ。
現在のガソリン価格は 1 ガロン当り 1 ドル 30。
敵はあなたの会社を事業から駆逐しようと決め、あなたも敵の会社を追い出したいと考えている。相手が価格を 1 ガロン 1ドル 25 に下げてきた。
これに対し、あなたは 1 ガロン 1 ドル 20 で対抗する。しかし 1 ドル 20 が損益分岐点である。
敵はさらに 1 ドル 15 に落としてきた。
あなたは次にどう出るか?
ここまできてしまうと、もうどちらとも価格競争に勝っための途方もない努力を強いられる。
だがそれはドル紙幣の競売のように、価格だけではどちらにも勝ち目のない戦いになるのである。
マックス H・ベイザーマン(著) 『マネージャーのための交渉の認知心理学―戦略的思考の処方箋』
―――――――――――――――――――――★
まあ、ガソリンスタンドなら、盛大にオークションをやってほしいですね。
でも、自分がそこにハマるのは嫌だなぁ。
と、いうことで、いくつか、引っかからないための私の視点を追加しておきます。
・心理的に、人が欲しがっているものは魅力的に見える。だから人が欲しがっていると認識したら、いいところではなく悪いところを探すようにする
・サンクコストは絶対に取り戻せない。まず諦めることから始める。「取り戻す」「取り返す」という言葉が頭の片隅に浮かんだ時点で、もうやめる
・一度コミットメントした以上のコストは、状況が変わっても支払わないと決める。判断基準を変えない
もし、判断基準変えるなら、冷静にゼロベースで考え直せるまで待つ
・競争することを目的にしない。自分の利益で測定する
もし、他に底なし沼にはまらないためのルールをお持ちならご紹介くださると嬉しいです。
■参考図書 『マネージャーのための交渉の認知心理学―戦略的思考の処方箋』
優れた交渉力はビジネスの成功には必須のスキルである。認知心理学は交渉におけるネゴシエーションの基本となる学問であり、その現実への応用方法を紹介する。
例:1.アンカーリング(係留効果)
2.Foot in the door
3.Door in the face
4.フレーミング
5.トレードオフ戦略
6.勝者の呪縛
本書では交渉におけるシチュエーションとして、1対1の交渉だけでなく、現実に起こりうる多数の利害が絡む交渉についても、認知心理学に基づいた戦略を提示する。
◆アマゾンで見る◆ | ◆楽天で見る◆ | ◆DMMで見る◆ |
マネージャーのための交渉の認知心理学―戦略的思考の処方箋 著者 :マックス H・ベイザーマン | マネージャーのための交渉の認知心理学―戦略的思考の処方箋 検索 :最安値検索 | マネージャーのための交渉の認知心理学―戦略的思考の処方箋 検索 :商品検索する |
●このテーマの関連図書
「話し合い」の技術―交渉と紛争解決のデザイン 4478027501