■「トシをとると物覚えが悪くなる」は本当か?
『記憶力を強くする―最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方』の引用から…
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「ちかごろ記憶力が落ちて… … 」「最近もの忘れが激しくて… … 」などとよくグチをこぼす人がいます。確かに、頭脳のはたらきは一七歳あたりまでがもっとも活発で、その後は徐々に低下すると世間ではいわれています。しかし、これは本当でしょうか。脳を詳細に調べてみると、確かに神経細胞の総数は歳とともに減っていきますが、シナプスの数はむしろ反対に増えていくことがわかります。つまり、神経回路は年齢を重ねるにしたがって増加していくのです。この事実は、若い頃よりも歳をとったほうが記憶の容量が大きくなるということを意味しています。
それなのに人は「歳のせいで覚えが悪い」と嘆きます。この嘆きはたいへんな間違いで、私から見れば、そういう人は単なる努力不足であるように思います。そしてまた、昔自分がものを覚えるために、どれほど努力したのかを忘れているのです。勉強がその生活の大半を占める学生時代でも、ひとつのものごとを習得するのに、かなりの時間と労力を必要としたはずです。こうして苦労した経験を忘れ、ただただ老化を嘆くのはとても愚かな行為です。
一方、「もの忘れがひどい」とグチをこぼす人がいますが、それもまた、忘れてしまって思い出せないのではなく、単に初めから覚えていないということではないでしょうか。覚えたつもりになっている、その勘一遅いは記憶力の停滞を引きおこすことがあつます。もし、皆さんが、いままでこうしたグチをこぼしていたとしたら、それは誤解ですから、ここであらためてください。
池谷裕二(著) 『記憶力を強くする―最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方』
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けっこう厳しいご指摘です。
私もよくいいます。「もう、トシなので…」
ただ、脳細胞は年齢とともに微小には減っていくが、それが記憶の障害になるほど減ることはないのだそうです。つまり、「トシのせいで記憶力が悪くなる」のは単なる言い訳で、きちんと勉強していないだけ、と。
確かに、学校の勉強のように、予習・復習をしている社会人は少ないでしょう。
逆に言えば、それをちゃんとやれば、他のライバル(同僚?)との差別化要素になるということでしょう。
しかし社会人になると、知らないといけないことが学校の勉強のように「教科書」があるわけでもなく、体系的に整理された情報ではなく、断片的で専門的な内容が増えていきます。そのため、記憶すると言っても「何を記憶すればいいのか、何が必要なのかは千差万別」になるのが、社会人の勉強の難しい所です。
このため、「これを覚えればいい」という正解が示されないものを膨大に記憶しないといけないのですが、それは事実上不可能です。
当然、努力していないし、トレーニングも不足しているという筆者の指摘も一面正しいとは思いますが。
■記憶の方法は年齢相応で変化する
では、どうしたらいいのかについて筆者は
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しかし、歳をとっても記憶力がまったく変わらないのかというと、もちろん、そういうわけではありません。それは、記憶にはさまざまな種類があって、しかも、そのおのおのが人の成長と密接に関連しているからです。図 5 (72ページ)で説明したように、記憶は階層を作っています。
そして、この階層は成長とともに少しずつ形成されます。たとえば、若いころは意味記憶(知識の記憶力)がよく発達していますが、最上階にあるエピソード記憶は、ある程度の年齢に達しないと完成されません。
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こうして考えると、記憶するときには年齢に見合った記憶の仕方があることがわかります。もちろん、勉学においても、これはとても重要なポイントです。
たとえば中学生の頃までは、意味記憶の能力がまだ高いですから、試験内容を「丸暗記」してテストに臨むという無謀な作戦でもなんとかなります。しかし、この年齢を越えたころから、少しずつエピソード記憶が優勢になっていきますので、これまでのような丸暗記作戦では、いずれ通用しなくなります。
歳をとって、エピソード記憶が発達してーると、丸暗記よりも、むしろ論理だった証憶力かがよく発達してきます。ものごとをよく理解して、その理屈を覚えるという能力です。
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もちろん、論理だった記憶方法は、学校の勉強のためだけに有用なわけではありません。
なぜなら、丸暗記は覚えた範囲の限られた知識にしか役立ちませんが、理論や理屈を覚えると、その論理が根底にあるすべての事象に活用できるのです。したがって、同じ記憶量でも、理論的な記憶のほうが高い有用性を発揮します。いうまでもなく、日常生活においても、これは応用範囲の広い記憶方法です。したがって、この第 6 章では、論理的な記憶力を鍛える方法について、多くの紙面を割きたいと思います。
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だそうです。つまりは、論理を勉強することが、中学生以降には適切である、と。
論理を勉強するために、論理を紹介した本を丸暗記するのは、上記の考え方からするとムリなので、
論理を勉強する
↓
実際の事実に当てはめてみる(実際に使ってみる)
↓
論理の検証をする
↓
最初に戻る
ということを繰り返さないと、勉強にはならないということでしょう。
これは、抽象化と現実(事実)評価を、繰り返し行き来することだと考えてます。
こういう方法によって初めて、その論理が頭のなかに記憶されることになるということ。
たとえば、よく言われる「学んだら人に説明しなさい」というのも、この一環かと。
あなたは、学んだことをフィードバックしているでしょうか?
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