おそらく大抵の人が知っている孫子の兵法の一節。
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原文
兵者,詭道也。故能而示之不能,用而示之不用,近而示之遠,遠而示之近。利而誘之,亂而取之,實而備之,強而避之,怒而撓之,卑而驕之,佚而勞之,親而離之,攻其不備,出其不意。此兵家之勝,不可先傳也。
読み下し
兵とは詭道なり。故に、能なるもこれに不能を示し、用なるもこれに不用を示し、近くともこれに遠きを示し、遠くともこれに近きを示し、利にしてこれを誘い、乱にして此れを取り、実にしてこれに備え、強にしてこれを避け、怒にしてこれを撓し、卑にしてこれを驕らせ、佚にしてこれを労し、親にしてこれを離す。其の無備を攻め、其の不意に出ず。此れ兵家の勢、先きには伝うべからざるなり。
口語訳
軍事の基本は敵を欺くことだ。だから能力があっても無いふりをし、勇気があっても無いふりをし、近くても遠いように見せ、敵にとって利益があるように見せて誘いこむ。
敵が混乱しているならその地を奪い取り、敵の数が十分に多いなら守りに徹し、敵が強いなら戦闘を避け、敵が怒っているなら挑発してひっかきまわす。
謙虚なら奢りたかぶらせ、余裕があるようなら疲れさせ、連帯が厚いなら分断する。
敵の守りが薄い所を攻め、敵が予想だにしなかった所に突出する。
これが用兵家のいう「勢」である。敵情によって作戦を変えるのだ。だから出陣前には伝えることができないものだ。
引用元 http://sonshi.roudokus.com/sonshi01_03.html
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これについて、面白い解釈がありましたのでちょっとご紹介します。
★P21〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
●兵とは詭道なり
戦いのコツは相手をだますことである。
:
ダマすというと人聞きがわるいが、まっとうなやり方(常道) で勝てるようなら、なんの世話もないわけで、それでは勝てないから工夫するのである。だが、工夫しているようでは、まだまだ半人前である。ダマしているという自覚もなくダマしている、という境地に達するべきである。そうなって、はじめてひとの上に立つ資格がある。
下に居るものは、ひとをダマしてまで勝ちたいとはおもわない。だから、孫子の言葉を読んでも、一味ちがうニュアンスを汲むことになってしまう。
:
下に居るものは、相手をダマそうするわけではなく、常識的でないやり方でやるというだけである。その結果、相手のはうで勝手にダマされちゃったら、不本意ながら、そのときはそのときである。
山田史生著 『下から目線で読む孫子』
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「結果として相手がだまされたことになる」というのは、なかなかおもしろい見方ですね。
また、「下に居るものは、ひとをダマしてまで勝ちたいとはおもわない」という部分も、なにごとにも中途半端な凡人サラリーマンとしては、「そうだよね〜」と思う気持ちと「だからいつまでたっても下流のままなんだよ」と思う気持ちと相半ばというところでしょうか。
■サラリーマンは信用が大事
正直な所、私としては、相手をだまそうが脅そうが自分に利益が得られる(=勝てる)ものならやった方がいいとは思います。
ただし、だまされた相手が、だまされたことに気が付かないか、もう二度と関わることがないかのいずれかの条件が必要かと。
つまり、長期的に見ると、だました相手に嫌われるだけでなく、それが自分の周囲に伝わり、「あいつはキタナイ」とか「信用できない」という空気が、結果的に自分の生涯利益(生涯に得られる利益の総計)に関わってくるリスクがどのくらい高いかという視点が必要になります。
現代は、「戦いに勝つ=相手を滅ぼす」ということではなく、その後も相手との関係が続くので、相手と目線が合わないほど圧倒的に上位に行くのではなければ、いつまでも何らかの関係が継続します。そうなると、相手から「信用をなくす」ようなことをすれば、そののち相手は自分の依頼を聞いてくれなくなったり、暗に不利益になることをされる危険があるわけですね。
これがまた難しい上にあたり前なのですが、信用するかどうかというのは、相手次第で自分がコントロールできるものではないんですね。他人の感情や認識を直接的に変えることができない。ある出来事に対してその人がどう受け取るかはその人次第。
ですので、相手を陥れようとする意思がなくとも、相手が「あいつにだまされた」と思われてしまえば、どう言い募ろうと結果は変わりません。
相手のために良かれと思ってやったことですら、恨みの元になることもあるわけです。
だからと言って、何もしないでいれば、成果は得られないので、サラリーマンとしては何かをしなければなりません。
それをよく受け取ろうと悪く受け取ろうと、「それはオレのコントロールできることではないもんね」と開き直るしかないわけです。
といって、明らかに相手の不利益になり、自分の利益になるようなことをすれば、ひがまれる確率は高くなるので、それを抑えるためにも、「あるところでは人に譲る」のが上策。100が取れる時でも、60くらいで満足しておいて残り40を相手に譲ってあげるとか、時々は一緒に飲みに行くとかして人間関係を維持しておく必要もあるんですね。
そうして相手にも利益が行くように、
信用貯金
をしておくことで、何かあった時に引き出しがでても、借金地獄に陥らずにすみます。
まずは、にこやかに与太話をするところから。
■参考図書 『下から目線で読む孫子』
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歴史上、数々の支配者たちに熟読されてきた兵法書の古典『孫子』。人間心理への深い洞察をもとに必勝の理を説いた同書を、視点をひっくり返して読んでみたら、何が見えてくるのか。自明とされた「勝ち」というものが、にわかに揺らぎ始めるかもしれない。『孫子』のなかから、これぞという言葉を選び、八方破れの無手勝流でもって解釈しながら、その真意を探る。
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見勝不過衆人之所知、非善之善者也
兵とは詭道なり
流れを変えてはいけない
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